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壊れた人は、壊れた人と対になるのですか、と問いたくなった。

「でも転ぶときってほとんどが楽しいとき。楽しくて楽しくて、夢中になって、そこに危険なものが待ち構えていることに気がつかない。だから出来るだけ楽しくならないようにしてた」

わかってしまう感覚。
ちょっと悲しい。
反面、皆そんなもんでしょ、とも思う。

物語の中、表紙にもあるガスタンクが印象的に登場する。
読みながら、なんだか懐かしいなと思っていた。
家の近所の東彩ガスのガスタンクかと思ってみたけど、なにかしっくりこない。
読み終わる頃気がついた。
俺が最も痛んでいた頃に、痛みを中和してくれた課長の車から眺めた、板橋だか練馬だかのガスタンクの像と重なって懐かしかったんだと。

好きな本にも種類がある。
人にすすめたくなる本と、そうでない本。
そうでない本というのは、感動が薄いとか、そういうことではなくて、あまりにも自分にしっくりきて、良し悪しが客観的に判断できないということ。
この本はそれだ。
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温かい話。

「ね、チップス、考えてみると、こんなところに何百という元気ざかりの少年が閉じこめられていることが、そもそも不自然極まる話なんですわ。~後略~」
~P38~

学校を指して、そう評する女性、キャサリン。

また、やれ能率だ、最新式だと…それが何だというんだ?ロールストンはブルックフィールドを工場に見立てて、これを経営して行こうとしている、金力と機械に基礎を置いた俗物の教養を生産する工場に。
~P63~

そう考えるチップス。

例えば、空の旅をしたこともなく、トーキーを見たこともないそんなことが思い出された。だから、彼は学校で一番年下の生徒より経験があるとも言えず、されば、老年と若年とのこの逆説こそ、万人が進歩と呼ぶものなのだと考えるのであった。
~P96~

素直で、謙虚な思考。

何かの問題提起があるわけでもなく、こういう人物が居たんだよ、と物語る文章。
それが、素晴らしく美しい。
学校という閉ざされた空間に根を張り、経年していく様を次々に回想する教師、チップス。
俺とは、正反対とまではいかないにしろ(なにせこれからどう変わるかは俺にもわからないのだから)今の俺の志向とは大分違う。
それは、きっと時代のせいではない。
きっと、今もこんな教師は少なからず居ると思う。
そして、社会にとって必要な人物だ。
キャサリンの考え、ロールストンの考え、チップスの考え、三者三様の考えの他に、退職をしたチップスを理事に迎えるべく働く若い教師や、子供たちが登場するが、彼らの全てが、現代にも存在するのだと思う。
そして、急進的なロールストンが居れば、それに反する者も居る。
人間の進歩についての描写があるが、結局、人間の社会生活の本質は何も変わってなどいないのだと思った。
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これまで、人の自殺や死について、あまり深く考えたことがないので、手に取ったのだと思う。

読後感は悪くない。
ただし、この本は「俺が人の自殺や死について深く考えるきっかけ」にはなっていない。
そして、自分の死ということについては考えを持っているつもりなので、あまり勉強にもならなかったのかもしれない。
買う前は、「人の自殺」について考えさせてくれるのかもしれないという期待を持って買ったのだが、読み終えた今、この本の狙いは、おそらく読者自身の「死」について考えさせることのような気がするので、購入する時の勘が間違っていたのだろうと思う。

ある種の人間にとってプライドとは、それなしでは生きていけないという強い思い込みと錯覚から生まれた致命的な欠陥だと思います。
~私が自決するとき~

それ、当てはまるな、と思った。

俺の個人的な「死」の感覚は上記抜粋部分に集約されていると思う。
自分の守りたい部分が瓦解した時、「死」を選ぶだろうと思う。
自分の欲望を押さえつけ、自身の尊厳を無に帰してまで生きていたいとは思わない。
そして、自殺を回避する道筋があるのならば、そちらへ突き進む。
だからこそ、前職は辞めた。
そんな考えだから、植物人間のまま生きていたいとも思わないし、苦しみや我慢の上の社会生活をしたいとも思わない。
それはすでに死んでいるのと同じだと思う。
少なくとも自分自身に関しては。

夭折を美しいものとするセンチメンタリズムはよそう。死ぬことは何としてもぶざまだ。首をくくってのびきった身体、そしてその一部一部分、あるいは吐しゃ物。これが美しいと言えるか。問題は生きることがぼくにとってそれ以上にぶざまだということだ。
岸上大作
~ぶざまに生きることを拒否する~

俺も、自決の美学とかは持ち合わせていない。

今、俺が死んでいないのは、自ら道を選びとることが出来たから。
今後、必ず死がおとずれると理解はしている。
別段いつまでは生きていたいとか、まだ死にたくないとは思っていない。
だから、事故死とか事件に巻き込まれて死ぬということは、仕方ないと思う。
それらは不可抗力で、特段恐ろしくはない。
その点が著者と大きく違う点。

所詮人間は動物で、ただ生きて死んでいくのだ。
墜落する飛行機に乗って、この世に生まれ出るのだ。
地面を這う蟻が人間に踏み潰されることを恐れるだろうか。
答えは否。
何が起こったかわからぬうちに息絶えるのみだ。
即死。

現在、自ら命を絶つような状況には陥っていないし、生きるための努力、つまりは自分のプライドを保つ生き方をやめようとは思わない。
いつか、自身のプライドが打ち崩され、自身の尊厳を守る術がなくなるその時がくるならば死んでやる。
そう思っている。
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古本屋にて、「池袋ウエストゲートパーク」が目に付いた。
テレビドラマが放映されていた時、実は、窪塚洋介のことを格好良いと思っていた。
当時、もしかすると窪塚洋介に関しての話を振られても「いや、俺はあんまり」とかなんとか言っていたかもしれないが、実は好きだった。
あとは、小雪の半裸体が目に焼きついていたような気がする。
そんなわけで、通して見たことはないが意外と好きなドラマだった。
だからこそ、その小説は読みたくないなと思っていた。
そして買わなかったわけだけれど、この「約束」を読んで、買ってみようかと思っている。

お涙頂戴系の短編集。
涙腺はだいぶ締まっている方だが、涙ぐんだ作品が多い。
しかし、この短編のタイトルにもなっている「約束」はいただけなかった。

「ヨウジはすごいやつでした。ぼくなんてあってもなくてもいいザコカードだけど、ヨウジは最高のプラチナカードでした。おじさん、おばさん、ごめんなさい。ぼくが生きててごめんなさい。ヨウジが死んじゃったのに、ぼくが生きててごめんなさい。」

「カンタは幼稚園のこと覚えてるかな。ぼくたちは身体もちいさかったし、結構いじめられてたろ。ぼくが今みたいになったのは小学校にはいってからだ。なぜだか知らないけど、急に成績がよくなって、思うとおりに身体が動くようになって、学級委員にも選ばれるようになった。でも自分ではいつも不安だったんだ。いつ昔みたいにもどるんだろうって。
~中略~
みんなが離れていっても、カンタは残っていてくれる。そうしたら、ふたりで遊んで大人になればいいやって、いつも思っていた。」
~約束~
子供の思考にしては大人びている気がして違和感があった。
ただし、それを読んで英雄という日記を書くほどに揺さぶられたのは事実で、それが少し癪に障った。
とにかく文章が巧い。
 
全7編中6編に子供が登場する。
彼らを取り巻く大人たちは輝いている。
そんな社会であれば、俺の思考の結論もこんな風にはならないはずなのにな、と思う。
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先生のどの質問も、私には愚かしく思われました。平生は実に道理のよくわかった人であるだけに、まるで気でも違ったのではないかと思われるほどでした。
~P96~

時として男が発する、トンチンカンな発言に女は冷めた視線を投げかけるのだろう。
それがわかっていながら、その科白を止めることが出来ないから男なのだとも思う。

女性の自立を描きたかったのだろうが、あまりにも哲学的過ぎたがためにサラリと胸を突き抜けていった。
あまりにも漠然とし過ぎているがために言葉は地面に突っ伏した。
そんな本。
無学なために、時代背景等がはっきりしないが、センセーショナルであったのだろうとは思う。
読後、「カラーパープル」を思い起こさせた。

ノーベル文学賞を授与されているが、本妻とは冷め切っていたり、同性愛者であったり、愛人との間に子をもうけたりと、破天荒な印象。
反ナチ、ファシズム、スターリン批判でも有名。
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哲学書・児童文学・純文学・娯楽小説などなど、本をジャンル分けすべく存在する言葉はずいぶんあると思うが、この本に一つを当てはめるのは難しい。

細かな点を多重に重ねて描かれる絵のような雰囲気が目の前に現れて、気持ちよく流れていく情景変化。
主人公「僕」の心情変化や心の波間に浮かぶ寂寞さえも、必要最低限の表現でしか語られないが、たった一言が、一文が、それを十二分に伝えてくれる。
そんな文章。

サンスクリット語で謎を意味する言葉。
ヒンドゥー教の超越的な宇宙原理である存在。
「ブラフマン」と名付けられた、とある小動物と「僕」のひと夏の物語。

家族がひとりずつ旅立ってゆく。残された者は、死者となった者の姿を、写真の中で慈しむ。そこでは死者と生者の区別はない。やがて少しずつ残される者の数が減ってゆき、とうとう最後には誰一人いなくなる。まるでそういう家族など、最初からどこにもいなかったのだというように、あとにはただ無言の写真だけが残される。…その静けさが、僕に安らかさを与えてくれる。
~P86~

無駄の省かれた文章であるからこそ、想像する範囲が広がってゆく。

僕にお釣りを渡してくれる指先は、草の汁で汚れていた。足をぶらつかせているせいで、サンダルが脱げかけていた。踵もふくらはぎと同じように白く、すべすべしていた。
~P162~

きれいな、静かな、青い文章。

「好きなだけ乗ればいい。今日は、一日中車は空いてるよ。君の自由にしていいんだ。そう、ブラフマンはいつまで泳いでいたって飽きないんだから、大丈夫。気にすることはない。君のやりたいようにやって構わないんだ。」
~P162~

読者に「おや?」と思わせる技術。
鬼才。

登場人物の名前はおろか、年や経歴も明記がない物語。
もう一度読んだら、登場人物の背景がはっきりしたものになってしまうだろうと思う。
それは、良いことでも悪いことでもないかもしれない。
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久世光彦、手にした3冊目。
桃と官能を結び付けたがる著者。
そこまでピンと来ない読者、俺。
いや、桃も女も好きだけど、「それだけなのか」と問いたくなるような、消化不良感。

有栖川の朝」のどこかほのぼのとした物語と、性的描写、獺の死。
飲食男女」の英雄譚風な著者の(?)色恋物語。
そして今回の「桃」。

面白い本なのは否定しないけれど、なんだか釈然としない、必要以上にデンジャラスな隠し味がわざとらしく鼻をつく部分があるような気がする。

三匹の猫たちとおなじサイズになったころ、私はようやく、死ぬということは、豆本の中に入っていくことなのだと気がついた。なんだ、それだけのことなんだと頷きながら、私は紅色の漆の中へ落ちていった。
~囁きの猫~

こんな静けさの裏にある死。
そして、その恐怖の克服。

「お金はどこにある」
小春は答えない。
「病院にいくにはお金がいるんだ。金出しな!」
小春は力なく首を横に振る。
「えっ?」
「ごめんね」
「ないのかい? なくなったのかい?」
「ごめんね」
~同行二人~

こんな切なさを持つ、遊郭の女達。

六道輪廻の あひだには
ともなふ人も なかりけり
独り生まれて 独り死す
生死の道こそ かなしけれ

あるいは有頂の 雲の上
あるいは無限の 獄の下
善悪二つの 業により
いたらぬ栖は なかいけり

月が隠れて 暗い夜は
いけない指を 待ちくたびれて
ホロリホロリと 泣きながら
六道輪廻の 闇の中
~いけない指~

こんな忍ぶ優しさの裏で展開する血盟団、立正護国堂。
翻る、一人一殺の文字。
少女から女への変移。

芝居は残り一幕である。役者はあと一人である。大詰めには、どうあってもお葉に出てきて貰わないことには、大団円の幕が下りない。
~桃―お葉のにおい~

時に芝居がかった言い回し。

不同和の同居。
それを楽しめなければ、それほど面白みを感じられない本かもしれない。

解説は、下手な感想文。
個人的には無い方が良いと思った。
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「人非人でもいいじゃないの。私たちは、生きていさえすればいいのよ。」
~ヴィヨンの妻~

意表を突かれた。
まさかという感じの台詞。
皮肉であることは自明。
俺という人間は、こういう意外性をこそ求めているのかもしれない。
それは太宰にではなく、本にでもなく、人生に。
求めている。

民衆だって、ずるくて汚くて慾が深くて、裏切って、ろくでも無いのが多いのだから、謂わばアイコとでも申すべきで、むしろ役人のほうは、その大半、幼にして学を好み、長ずるに及んで立志出郷、もっぱら六法全書の糞暗記に努め、質素倹約、友人にケチと言われても馬耳東風、祖先を敬するの念厚く、亡父の命日にはお墓の掃除などして、大学の卒業証書は金色の額縁にいれて母の寝間に飾り、まことにこれ父母に孝、兄弟に友ならず、朋友は相信ぜず、お役所に勤めても、ただもうわが身分の大過無きを期し、人を憎まず愛さず、にこりともせず、ひたすら公平、紳士の亀鑑、立派、立派、すこしは威張ったって、かまわない、と私は世の所謂お役人に同情さえしていたのである。
~家庭の幸福~

リズムが良い。
無呼吸で読んだ。

曰く、家庭の幸福は諸悪の本。
~家庭の幸福~
食べては種を吐き、そうして心の中で虚勢みたいに呟く言葉は、子供よりも親が大事。
~桜桃~

分かり易い「既成概念の破壊」の思想の現れ。
そして自らも滅ぼす。
それすらも構想の一部であるかのような彼が、やはり好きだ。
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痛んでいる(傷んでいる)人間というのは、大体こんなもんだな、と思うと同時に、俺はそこまで酷くなかったのに、同じような感情が呼び起こされていたと考えると、こんなもの嘘っぱちだと思わなくもない。
この小説に限ったことではないが、精神的なバランスを崩している主人公は、病院へ行かなくてはならないほどの症状であるのに、なぜ病院に行かなくて済んだ俺と同じようなことしか考えないのだろうかと言う疑念。
病院へ行かなくてはならないような人物は、俺とは歴然とした違いを持っているのだと思っているが、たいていの小説の主人公達は、俺と同じようなことを考え、同じような行動をとる。
それって何かおかしくないか、と改めて思った。

中絶の施術シーン描写は、水子霊を思うと、目に痛かった。

養父と母は私をその場に置いて帰ってしまい、彼らはそれを仕置きだと思っていたらしいが、私にとっては、はっきり言って気分は、
「ラッキー!」
であった。
~P.151~
はしゃぐことは重要。
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この著者の本は、良い・悪いで判断するのが難しい。

男ってなんでこんなにバカなのか。
男が勝手なことを言ってやがる。
と思う人があるだろうなと想像する。
もっと、年を食ってから読んだら、良かったかなとも思う。

落ち着いて思い出して、「ああ、確かにね」とでも過去の思い出を反芻しながら、読者の中の思い出とシンクロさせながら読み進むと良いのではないか。
と言ったって、思い起こせる出来事は、どちらかと言えば持ってる方だから、気軽に読み進むことが出来るし、文章自体は読みやすく良心的な気もする本。

「…うまい○○を食わせる店がある。」
という言いまわしについて、これは「おいしい○○を食わせる」では駄目だし、「うまい○○を食べさせる」ではだめで「うまい○○を食わせる」でなければならない。
~豆腐弥左/春~

思い出話はもっとロマンティックだったり、感傷的だったりするものだが、ぼくと水沼の〈ゼームス館〉の記憶は、いってみれば風みたいな話なのだ。
~ゼームス館/秋~

いまになって不思議でならないのだが、昭和30年代のあのころの街には、どうして〈物語〉があんなにあったのだろう。誰も知らないアパートの角の部屋や、ニコライ堂の裏の露地に、若い物語が、空のビール壜みたいにいくつも転がっていた。
―「今夜でおしまいよ」と突然ジョジョに言われて、ぼくはぼくたちの終わりを知った。
~中略~
明日からぼくは、卒論を書き、就職先を探すだろう。
~煮凝/冬~

「影願望」「隠れ蓑願望」、なんて凄くわかる。
〈物語〉が転がっているのは若い証拠ではないのだろうかと思う。

粋というのは「わけもわからぬまま、やせ我慢することだ」と解説にあった。
なかなか上手い表現だと思った。
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「あんたはいつだって、いい声を出せるんだ。しかし、こんな風にあんたがだまってしまうと、誰がどうしたって無理にいい声を出させるわけにはゆかないんだね。驚き声や怒り声や泣き声は出させられたって、自然な声で話す話さないは、あんたの自由だね。」
~P.13~
その通りだけど、客観的に見れば、やはり変わった表現だ。
そのように言われると、人は一種薄気味の悪さを感じるものなのだろうか。
そう伝えたいことは山ほどあるのに、やり切れない気持ちになる。

「なんの秘密もないところに、あらゆる人間感情は成り立たないね。」
~P.29~
極論。
だけど、確かにその通りだ。
でも認めたくない自分がいる。

「草葉のかげというのはね、ただ草の葉のかげの意味もあるが、今一般に使われるのは、あの世、墓の下の意味だね。」
P.108
草葉のかげ。
だからあんなにも静かだったのか、と思う。

並木のいちょうの葉に雨の音が聞こえはじめた。非常に大粒で非常にまばらで、半ば水になった雹か、軒の雨だれのような雨の音である。平地には降るはずのない雨で、どこかの高原の闊葉樹木にキャンプした夜にでも聞く音である。いくら高原でも夜露の落ちる音にしては多過ぎる。しかし、銀平は高山に登った覚えもないし...
...いちょう並木を登る幻の少女に、幻の雨が降るなんて、...
...銀平の這う地の裏側から、赤子が銀平につれて這っているのだ。鏡の上を這うのに似て、銀平は地の裏側の赤子と掌を合わせそうになった。冷たい死人の掌だ。銀平はあわてて...
P.130~131
今日の帰り道はそんな雨に降られた。

連想に次ぐ連想。
多くの事象から過去が甦り、目の前に展開していくとしたら、その過去が悲惨であったならば、それはそれは悲惨なことだろう。
銀平のような所がないではないが、幸い俺は悲惨ではない。

解説は教科書じみて面白みに欠けた。
俺は文学オタクではない。
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上質な娯楽小説
上質過ぎて、もう少し勉強と広い視野が必要だと思わされた。

2003年の「有栖川宮様の名を語り、披露宴でご祝儀をせしめたという詐欺事件」を題材に書かれた作品らしい。

物語は、犯罪すれすれの生活の描写でありながら、ゆったりと時間が進んでいく雰囲気は読んでいて楽になる文章だった。
また、登場人物の個性が際立っている作品で、じっくりと噛み砕きながら読むと更に楽しめそうだと思う。

メタファーの宝庫。
だが、俺にとっては毒が丸い。
満喫したが満足はしない。
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数ページで完結する日常の不思議な出来事と詩を45まとめた作品。
基本的には、著者の日記を覗き見ているような感覚を覚える文庫。
登場人物が皆現実らしさを帯びて現れる文章。

以前「コンセント/田口ランディー」を借りて読んだことがあるがが、内容はあまり覚えていない。
あるのは、ミステリーだったような、という漠然とした記憶のみ。

 しょうがないよね、泣いたってあんたは元気で、桜見物に来て酒なんか飲んでて、でもこの世の中のどこかには(あんたの友人のような)末期癌患者もいれば、植物人間もいれば、飢えてる人もいれば、自殺しようとしてる人もいる。だけどこの山は平和で桜があっぱれに咲いている。こればっかりはさ、しょうがないんだよね。~中略~男はずっと泣いている。しまいにゃあ、あたしの膝につっぷして泣いている。そんで、さんざん泣いて帰って行った。家には女房と子供がいて、恥ずかしくてめそめそできないんだって。なんだかせつない花見であった。
 幸せであることが辛いような時ほど、桜は妙に美しい。
~しだれ桜と、泣き男/0~

何の共通点もないのに、なんだか次の春の桜は、妙に美しくなりそうだ、と感じた。
あまり、好ましくはないけれど、多分そうなるだろうと思う。
著者の言葉を拝借すれば「どっかんと降りてきた確信」。

 父は68歳になってもなお、自分の感情を的確にコントロールすることができない。毎日が感情の海に揺れる木の葉のように過ぎていく。
~中略~
 激しい感情の起伏が彼を支配している。強烈な愛情と強烈な憎しみ。強烈な暴力と信じられないような柔和さ。
 感情とは力なのだ。あたしはそうはっきり認識している。
 父の感情は空間をぐにゃぐにゃとよじる。
 よじれた空間のひずみにはまると人は命すら落としかねない。
 感情のもっているパワーとはそれほどまでに恐ろしい。
 結局のところ、父が激情によってよじった空間に干渉されないためには、反対の感情をあたしが持つことだと気がついた。(母が亡くなった)悲しみには愛しか立ち向かえない。
 それでもようやくプラマイゼロだ。
~プラマイゼロ/00~

このままいったら、俺の歪みは人を殺してしまうか、自分を殺してしまいそうだと思った。
恐ろしい。
恐ろしい。
恐ろしい。
直接的な暴力というのは、俺の辞書には殆どないが、直接的なものだけが、暴力でないことはよく知っている。

~捜索隊/00000~のような忍ぶ愛の実践は難しい。
~感じること、信じること/巻末~の感じる人が沢山欲しい。

幸いなこと。
こんな本を読まなくても、この本に出てくるような人物を知ってる。
だから、この本はそれほど面白かったというわけでもない。
それでも身近に感じたのは確かで、自然だった。
しかし、それと同時に、こういった作品が、世に流通されるということは、この本の登場人物たちは少し変わっていて、稀有な存在なのだろうかと思い、俺はそういう知人友人を持っていることを誇っていいのだろうかと、不要な優越感に浸ってみたりする。

とにかく、田口ランディーの顔が嫌いなんだ。
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与えられた傷が深ければ深いほど、善意と同情でさえも更に傷を抉る、ということを私は学んでいた。
~3~

小説内小説の著者が、小学生で少女だった頃の自分の思想描写として書いた一文。

俺も、壁に閉じこもったことがある。
第一の壁は、自分が閉じこもるために自分で作った。
それでも、その時の心境なんてものは、ずいぶん前に忘れてしまっている。
それでも、思い起こせば、俺の壁にはドアがついてて、出入りが出来る人間もいたんだと思う。
結局彼等は俺の思い通りにはならずに気付けばいなくなったけれど、その頃の壁には亀裂が入り出して、俺はドア以外から入って来る人間の相手も出来るようになっていた。
そう考えると、彼等は彼等の意思でいなくなったのではなく、俺が彼等を追いやったんだろうとも思う。
でも、だからこそ、大したダメージもなくのうのうと暮らしてこられた。

次の壁は全く異質のもの。
第二の壁は、何かを拒絶するために自ら築いたものではない。
自分の意にそぐわないものは壁に囲まれているとみなしたのだ。
想像したのだ。
空想の産物なのだ。
その壁は、未だに堅牢を保ち、普段は俺の生活の目にすらあまり触れることがない。
今となっては、目に触れたところで無視が出来ると思えるほどになっている。

そうやって、歳をとってきたから、「ちょっと変だよ」「おかしいよ」と言われるのだろうか。
そればっかりは、自分をおかしいと思わないので、さっぱり想像すら出来ないが、あなたの心理を考えるとき、少しわかりそうな気もする。
あなたの心理。
それすら、私の想像だということは、重々承知しているけれど、想像をやめることは、まだ暫く出来ないだろうと思う。

そして、もう見ていないかもしれないと思っても、あまり痛みはない。
寂しくはあるけれど、私はあなたを駄目にしてしまうかもしれないと思ったりもするから、仕方なく納得している。
少なくともここ数日は。

タイトルの小説は、人間の想像力とはなんと恐ろしいものだろうか、と思わせる小説。
人は、死ぬまで真相を口にせず、事件は永遠に謎のままなのだろうか、という考えに行きつくと、やはり少し寂しい。

先生ほんとにすいませんでした。でも、私のことはゆるしてくれなくてもいいです。私も先生をゆるさないと思います。
~冒頭/安倍川健治の手紙~

ケンジ、私も許しを請わないよ。
~6~

「“ゆるさない”の言葉はなぜかわからないけれど思わず書いてしまったもので、自分でも意味がよくわからなかった。わからないから何回か消しかけたんですが、わからないのに出てきてしまったからこそ物語の棘として」残しておいた。
~解説/斎藤環:著者インタビューより抜粋~

そういうの、わかる。
俺は感受性がすごく強いほうではないし、そういった人物に出会うと自分の中に芽生える小さな小さな嫉妬心に気付き自己嫌悪をするけれど、世に名の知れた人物の感覚に親しみを覚えることは少なくない。

この本は解説も良かった。
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文章のリズムは凄く良い。
わりとさらさらと読めた。
読後感は悪くないけれど、これと言って残るものがあまり無いような気がした。
それでも、後から思い返せば、端々に気になる文章が散りばめられてはいる。

「あんたがいいみたい、そう思ったんだ。」
わたしは、嫌な気持ちで、ムッとした。誰が選んでくれと頼んだ?と。
~2~

誤解するひとは、それでかまわない。
わたしの努力も足りなかったのだろう。
でも努力したって、なんになるのだろう。
誤解は、すべてが間違っているわけじゃあない。そのひとが考えたわたしは、そのひとのなかでは、そういうやつだったのだと思う。
~4~

好きという言葉は言い過ぎて、四回目のティーバッグみたいに、もうくたくたで香りも色もない状態なのだが、まだつかわなければならないらしい。
中略
好きだから、会う、好きだから、いっしょにごはんを食べ、性交し、眠る。もっともらしいが、からっぽ。
感情をぶつけてみても、ひょいとよけられるので、空まわりだ。
~5~

辛かったり、嬉しかったり、苦しかったり、楽しかったりを繰り返して、結婚はせず、子供も生まず、40になった女、永遠子。
これと言ってやりたいこともなく、友人に囲まれているわけでもなく、むしろ人間から遠ざかって生きていく。
ゆらゆらと時間だけが過ぎていき、心の傷はウォッカで洗う。
それでも、多分彼女は不幸せではないのだと感じた。

「また言うわよ、まだまだこれからも言うわよ。あなたはね、しあわせをどこか勘違いしてる。あたしから見ると、あなたは相当な不幸だ」
腐れ縁の友人の言葉に永遠子はこう答える。
「違うんだよなあ」
「わたしは、ぴんとくるんよ。あ、このひと、いい、って」

そういうのだけ大切に出来るのも素敵じゃないかって思える。
俺は決して彼女のようにはなりたくないけれど。

嗚呼。
それは作者の意図にまんまと引っ掛かっているのかなと思った。
「こいつらよりはましだな」と思えという。
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